新監督・西野朗が日本代表にもたらすものとは

著者: SporTipsオフィシャル


前夜の4月8日に日本サッカー協会から出されたリリース「ハリルホジッチ監督の去就についての会見」でなかば予想はできていたものの、ワールドカップの初戦まで約2カ月のこのタイミングということで驚いた方も多かったに違いない。

サッカー界では珍しいことではない監督解任

4月9日、日本中を駆け巡った「ハリルホジッチ監督解任」の報せ。前夜の4月8日に日本サッカー協会から出されたリリース「ハリルホジッチ監督の去就についての会見」でなかば予想はできていたものの、ワールドカップの初戦まで約2カ月のこのタイミングということで驚いた方も多かったに違いない。

 

確かにこの時期の監督解任は異例ではある。ワールドカップ直前のこの時期は、ライバル国が着々とチーム固めをしてチームの精度を高めている時期である。

本来であれば日本もメンバーを固定して、チームの連携を高めなければならない段階である。それが監督解任となると、チーム作りの根本から覆ることになる。

解任するのであれば、他にいくらでも時期はあった――。多くの日本国民がそう思っているだろう。確かにその通りだ。解任するのであれば昨年の12月に行われ4対1と惨敗した「EAFF E1サッカー選手権」の韓国戦後でも、ワールドカップ予選で敗退したハイチに対してホームで引き分けた昨年10月の試合後でも良かった。

いくらでも解任のタイミングはあったのだ。日本サッカー協会はこれまで幾度となくあった解任のタイミングで、ことごとく我慢した。しかし、3月末に行われた欧州遠征の1敗1分けという結果、さらに一部で指摘されていた「選手とのコミュニケーション不全」(田嶋幸三・日本サッカー協会会長)をもってハリルホジッチ監督を解任した。

 

日本では解任に対してネガティブな意見が数多く取り上げられ、事実、ワールドカップの日本代表の戦いを心配している方も多いだろう。しかし、監督解任はサッカーの世界ではよくあることで、そのこと自体はそう心配すべきことでもないのだ。ロシアワールドカップの出場国のなかでも、セルビア、サウジアラビア、オーストラリアの監督が予選通過後に解任あるいは辞任をしている。

また、今回の解任劇の当事者であるハリルホジッチ自身、8年前にコートジボワールを率いてワールドカップ予選を通過したものの本大会までに解任されている。

 

Jリーグに目を向けてみても昨年アジアチャンピオンズリーグを制した浦和レッズの堀監督が、今期に入ってから5戦勝ちなしということで4月2日に解任されている。ちなみに堀監督自身も昨年、ペドロビッチ監督解任の後を受けたシーズン途中での監督就任だった。また、世界を見てみても、優勝監督が次のシーズンの序盤の不振により解任されることなど、ありふれた話だ。

サッカー強国であればあるほどその傾向は強く、ブラジルやドイツ、イングランドなどでは、ほんの数試合結果が出せなかっただけで監督が解任されるという例は枚挙にいとまがない。

 

日本人の途中解任に対する必要以上のネガティブなイメージは、恐らく野球の影響だろう。日本は長らく野球が国民的スポーツだったが、日本のプロ野球には降格がない。

いくら負け続けてもNPB(日本野球機構)から社会人野球に降格するということはありえない。そのため、サッカーの監督と比べるとプロ野球の監督のシーズン半ばでの解任は少ない。しかし、サッカーの世界ではリーグ戦と昇格・降格はなかばセットになっている。昇格・降格は翌年のクラブの財務状況に直に直結する。昇格すればクラブが潤うし、降格すれば財政の危機が訪れてしまう。

負け続けていればどんどん下部リーグに降格していき、最悪の場合クラブ自体が消滅してしまう。勝負の全責任を負う監督は、結果が出なければ解任されるプレッシャーと常に戦っているのだ。そういった意味では、日本もようやく南米や欧州並みの監督解任の基準を持ち出したと言える。

 

以前までの日本代表であれば混乱や批判を恐れ、この時期での監督解任は考えられなかったのではないか。

有効な手を打てないままに本大会に出場し惨敗していたのではないか。しかし、今回は違う。サッカー協会が批判されたとしても、ワールドカップ本大会で結果を残す――。

ワールドカップでの勝利の確率を1%でも引き上げる――。今回の解任劇からは日本サッカー協会のそんな気概が感じられる。Jリーグの初代チェアマンを務め、長く日本サッカー協会会長を務めた川渕三郎は今回の解任劇に「敬意を表したい」と発言した。

真意は本人のみ知るところだが、私の感想とそう違わないのではと推測する。

日本サッカーの未来を託された新監督・西野朗とは

それでは、日本サッカーに対する期待やプレッシャーを一身に引き受ける身となった新監督・西野朗はどんな指揮官なのか。埼玉県立浦和西高校、早稲田大学を経て日本サッカーリーグの日立製作所に入った西野は現役時、天才型ミッドフィールダーと呼ばれた人気選手だった。日本代表にも幾度となく招集された当時のトッププレイヤーだったが、その経歴は指導者になってからの方が華々しい。

 

現役引退後の1991年に就任したU-20日本代表監督として指導者生活のスタートを切った西野を一躍時の人としたのは、オリンピック代表監督時だ。

主将・前園真聖、中田英寿、川口能活、城彰二などスター性を備えたタレント軍団を率いた西野は28年ぶりのオリンピック出場を決める。

本大会では優勝候補筆頭の超スター集団・ブラジル代表を1-0で下す歴史的勝利を演出。後にこの試合は「マイアミの奇跡」と呼ばれる伝説の一戦となった。

 

オリンピック代表監督として能力を示した西野は、1998年に古巣・日立製作所を母体とするJリーグ・柏レイソルの監督に就任。柏レイソルでは、ナビスコカップを制し、クラブ史上はじめてのタイトルをもたらした。

また、リーグ戦においては常勝・鹿島アントラーズと最後の最後まで優勝争いを繰り広げた。結果、年間2位という当時のクラブ史上最高成績をおさめ、Jリーグ最優秀監督賞に選ばれた。

 

クラブでの指導歴で絶頂期を迎えたのは2002年に就任したガンバ大阪監督時だろう。Jリーグ発足時の加盟チームの一角、いわゆる「オリジナル10」ながら、それまでタイトルとは無縁で下位争いに甘んじる多かったチームを一気に上位争いが狙えるチームに押し上げる。

年々チームを強化し、監督就任4年目の2005年にガンバ大阪に初めてのタイトルとなったJ1リーグ優勝をもたらし、2度目のJリーグ最優秀監督賞を受賞。

 

2008年には「AFCチャンピオンズリーグ」を制し、ガンバ大阪はアジア№1のチームになった。この大会でも西野監督の手腕は大いに評価され、アジアサッカー連盟(AFC)からアジア最優秀監督に選ばれた。アジアチャンピオンとして臨んだ「FIFAクラブワールドカップ2008」では1勝を挙げ準決勝に進出した。

ちなみに「クラブワールドカップ2008」での勝利は、FIFA主催の公式大会での日本人監督としての初勝利だった。ガンバ大阪では2011年まで指揮を執り、クラブにさまざまなタイトルをもたらす。かつてJリーグのお荷物チームのひとつであったガンバ大阪は、西野の監督就任以降、リーグ屈指の強豪チームに生まれ変わった。ガンバ大阪を離れてからは、ヴィッセル神戸、名古屋グランパスの監督を歴任。挙げた白星は通算270勝に上り、この記録は現在までのJリーグにおける歴代最多勝である。

 

経歴を紐解いていくと、日本人初、クラブ史上初、歴史的勝利といった言葉が目立つことに気が付く。経歴だけを見ても西野監督は、歴代日本でも屈指の実績を持つスター監督であることが分かるのではないだろうか。

国内指導経験、海外大会での指揮経験ともに豊富で、現在のところ西野監督以外にこの急場をしのげる人材は国内にはいないというのが実状だろう。西野監督は現在63歳。監督としては円熟期に差し掛かるとても良い時期だ。

とにかくその豊富な指導経験、大会経験の集大成をロシアワールドカップで見せてもらいたいものである。

 

西野監督のもたらすサッカーとは

それでは、西野監督はどのようなサッカーを得意としているのか。西野サッカーの大きな特徴は、ポゼッション(ボール保持率)を上げて戦う攻撃サッカーにある。これまで柏レイソル、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸、名古屋グランパスと4チームを率いてきたが、どのチームにおいてもそのサッカーの根本は変わることがなかった。

ゆっくりとボールを回しながらチャンスと見るや一気に攻め込む西野サッカーは、激しいプレッシングから手数をかけない速攻スタイルを目指したハリルホジッチ前監督のサッカーとはまったく異なるサッカーだ。日本人選手との相性的には、西野監督のサッカーの方が合っているだろう。

 

日本代表は中盤にテクニックのある選手がそろう一方、ハリルホジッチ前監督のサッカーを実現するにはスピード不足という欠点があった。技術やボール保持率を重視する西野監督のサッカーは、現在の日本代表選手の特性とうまくはまる可能性が高い。

監督交代の時期の問題で日本サッカー協会への批判が強いが、冷静に戦術面を見ると、この監督交代に合理性があることが分かる。

 

問題はその戦術を浸透させる時間が限られているという点だ。本番までのテストマッチは残り3試合、2週間程度行われる直線合宿を含めても残された時間は多くないのは事実だ。しかし、西野監督のサッカーは、フィリップ・トルシエ、イビチャ・オシムなどの元監督が推し進めたような決まりごとの多い特殊なサッカーではない。

良い意味でシンプルで、複雑な動きや決め事が少ないサッカーだ。考えてみればシーズンを戦うクラブチームでも準備期間2カ月あまりで開幕を迎えることが多い。元々能力や戦術理解度の高い選手が選ばれている現在の日本代表においては、あまり心配しすぎることもないだろう。

 

ワールドカップまで残り約2カ月。選手、監督はもちろん、日本サッカー協会が一丸となってひとつの目標(ワールドカップでの勝利)に集中できるかどうか。この期間は短いものの、日本サッカーの将来を占う期間と言っても過言ではないほど重要な期間である。

ここで惨敗してしまえば、日本サッカー協会への批判はさらに高まり、ひいてはせっかく隆盛を極めつつあるサッカー人気にも悪影響を及ぼしてしまうだろう。劣勢が予想されるロシアワールドカップ。日本サッカーの未来のためにも西野ジャパンには、良い意味で期待を大きく裏切る活躍をしてくれることを一サッカーファンとして切に願ってやまない。

 

 

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